取り扱いについて


■素材情報について

 工業用毛糸は多くの場合、芯に表示されている素材情報と実際巻かれている糸が一致しません。これは使い終わった芯に、他の糸を巻き直したりして再利用するためです。
 また、一般に出回る工業系とは混率を示す手間を省いて格安処分で問屋に卸されるため、混率不明の糸も多いのが現状です。ちなみに、混率とは素材の混合割合のことで、たとえばメリノウール50%アクリル50%などと記載されます。2つ以上の糸を撚り合わせたりして様々なデザインの糸を作り出すため、たとえば芯糸がポリエステルでポンポンがアクリルのポンポンヤーンをメリノウールの糸と撚り合わせて引き揃え糸を作り出したりしたらもう混率を示すのは困難です。
 絶対ではありませんが、素材不明の糸を調べる方法があります。火であぶると、ポリエステルやアクリルなどの化学繊維は解けて固まりますが、ウールなどの獣毛は、髪の毛が焦げたような臭いとともに燃えます。化学繊維との混紡の場合、両方の特徴が出ます。ここで判明した大まかな情報で、例えば獣毛が混じっている場合、洗濯と保管は獣毛の場合に準じて、糸を組み合わる場合、縮みを考慮する必要が出てきます。
 面倒ですが、事前に調べることで、予想外の収縮や洗濯トラブルや型崩れ、虫害などのある程度のトラブルを避けることができます。

■縮絨(しゅくじゅう)について

 工業用毛糸は機械で編むのをスムーズにするために、蝋引き糸のように毛糸に油が塗られています。その為編み上がり後に、縮絨(しゅくじゅう)という油落としの洗濯作業が必要になります。この縮絨作業をすることによって、余分な油が取れ、その毛糸本来のふんわりとした風合いを取り戻すことができます。中性洗剤はモノゲンなどの毛糸専用のものが油落ちが良いので望ましいですが、ない場合はエマールなどでも可です。

【洗濯機の場合】
 ①洗濯機で41℃~43℃位のお湯でおしゃれ着コース洗い5分、1回すすぎ、脱水1分に設定、
  洗剤は記載の用法容量に従った中性洗剤を入れる。
 ②柔軟剤が入った41℃~43℃位のお湯に約5分つけおきする。
 ③1分間脱水をかけて日陰で平干し後、完成寸法に形を整える。

【手洗いの場合】
 ①41℃~43℃位のお湯に中性洗剤を入れ、優しくもみ洗いをする。
                    (強いとフェルト化するので注意)
 ②手で優しくすすいで脱水。
 ③柔軟剤が入った41℃~43℃位のお湯に約5分つけおきする。
 ④バスタオルにはさんで、優しく水気を取り除く。
 ⑤日陰で平干し後、完成寸法に形を整える。

※以上は一般的な縮絨方法で、糸の種類や洗濯機の機種により仕上がりは変化します。
※縮絨には必ず縮みが発生します。本番製作に入る前に、必ず縮絨後のゲージを取り、縮絨前と比較・修正してから製作してください。

■試編み(スワッチ作成)のすすめ

 多くの場合縮絨後はサイズが小さくなるので、本番を編む前に、スワッチという試し編みが必須です。収縮率は毛糸によって違ってくるので、せっかく編んだ作品が縮絨で縮んで着られなくなってしまう失敗を回避するためにもこの作業は必須です。
 まず縮絨前にゲージを取り、それを縮絨し、縮絨後で縦横それぞれどのくらい縮んだのかを確認して、希望のサイズになるように、編み図の目数や段数の修正をします。
 また、細めの工業用糸を複数引き揃えて編んだ場合も、素材によって収縮率が変わってくるので、縮絨後にそれぞれの糸に違和感がないか(収縮しないポリエステル素材の糸が浮いてしまうなど)引き揃えた状態のスワッチを編んで縮絨し、仕上がりの風合いを確認してください。違和感があれば面倒ですが収縮が激しい糸をあらかじめ縮絨してから引き揃えて編むなどの配慮が必要になります。



 

■斜行について

 ニット糸で扱う糸の多くは双糸になっています。双糸は一般的な多くはZ撚り(右撚り)の単糸 を逆方向S撚りで2本撚り合わせた状態を指しこの単糸の撚り(下撚り)と 双糸の撚り(上撚り)の回数のバランスが不均一だと左右どちらかの方向への編地の歪みが発生します。これが斜行です。
 2本以上を撚り合わせた工業用毛糸はほぼ問題ないのですが、単糸や、撚りの方向が一緒だと、編んだ時に斜行が出てしまうことがあります。2本以上でも同じ方向の撚りの糸を引き揃えて編んでしまった場合にも斜行は出ます。
 では、どうしたらよいか。理論的には反対の撚りの糸で歪みを打ち消してしまえばよいのですが、素人目に撚りを見極めて配合具合を変えるのはとても難しいです。冬物の糸はふんわりと編んだり多数の糸を組み合わせて偶然の打ち消しあいを探ることができなくもないですが、残念なことにこの斜行は引き揃えをあまりしない夏糸の麻などに起きやすいのです。
基本的にはあきらめて、その歪みを活かしたデザインの作品に仕上げるしかないのが実態です。


 

■混紡糸の取り扱いについて

 化学繊維の糸は虫害に基本的にはあいませんが、動物性の素材の虫害はとても悩ましい問題です。混紡の糸も基本的には虫害にあうことを想定して、材料の毛糸や編みあがった作品の保管に気を配らなくてはなりません。また、湿気が多い梅雨時もカビなどの対策も必要です。
 では化学繊維は気楽かというとそうでもなく、アクリルは毛玉や静電気が起きやすいですし、レーヨンは水洗いによる縮み、ナイロンは熱に弱いなど、衣服同様に取り扱いに注意が必要です。
 混紡の場合は、より配慮が必要な素材に合わせることになります。動物性素材が含まれている場合は、洗濯による縮み、虫害に気を付けた保管、ナイロンなどの熱に弱い素材の場合はアイロンの温度などの注意が必要です。
 素材不明の混紡の場合も洗濯・アイロン・保管はより問題の想定される方向の配慮が必要になります。

■糸の引き揃えについて

工業用毛糸は細めだったり、可愛いファンシーな糸があるため、引き揃えて編むと、とてもかわいい編地の作品が出来上がります。雑貨店であらかじめすべての糸を引き揃えて小巻で売られているものもあります。シュシュなどの小物作成では問題ありませんが、セーターなどの大物を作成する場合は、あらかじめ引き揃えて使用するのはおすすめしません。
 例えばウールのループヤーンなどは引き揃えるときによく伸びるので、伸縮しないポリエステルの糸と同じタイミングで巻くと後でループヤーンが縮んで戻り、ポリエステル糸にたるみが出てしまいます。それを修正しながら編むのは作業がなかなか捗らずイライラの原因になってしまします。なので、大物を編むときは引き揃える糸を並べて同時に引きながら編み進めていきます。とはいえ大きいコーンのままだと場所をとりますし、モバ編みなど外に持ち出したいときは不便です。
 そのような場合は事前に玉巻器で小巻の毛糸を作るとよいです。細い糸は絡まりやすいので、巻くときに玉巻器の内側に厚紙を巻き付けてから糸を巻くと玉巻器からも外しやすくなります。この場合巻いた糸は外側から使用してください。
 

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